小説02-02

第2話

溶けない黄色

窓からの陽光。
絵の具の匂い。
色を走らせる絵筆たち。

ワコが通う美術系高校。
デッサンや水彩、色彩構成を学びながら、美大進学を目指していた。

その中で、ワコは筆を動かせずにいた。
緊張した教室の中、一人だけ立ち止まったまま。

パレットの黄色は固まったまま。
ワコには、その色を溶かすことができない。

ワコは立ち上がり、教室を出た。

廊下の突き当たりにあるドア。
開くと、春の風が吹き込んできた。

非常階段の踊り場。
ここは、ワコの隠れ家だった。

「おーい、また逃げた」

無邪気な笑顔の少女が追いかけてきた。

「ソラ…」

目をそらし、校庭の桜を見下ろす。

もう、花びらは散り始めていた。

ソラは、左隣に座り込んだ。
いつものソラの居場所。

うつむきながら、ワコは言う。

「私、こんなんじゃダメだよね」

ソラは意地悪そうに微笑んだ。

「ワコちゃんはダメダメ、知ってるけどね」

そう言って、筆を差し出した。

筆先は、まだ乾いていない。

桜の花びらが、ワコの肩に乗っていた。
ソラは花びらをそっとつかみ、柵の向こうへ飛ばした。

青空に吸い込まれていく。

花びらを見送り、筆を受け取った。

ソラは、猫のように背伸びをして笑っていた。





カーテンから漏れるオレンジ色の光が、パレットを照らし始めていた。

ワコは、まだ乾かない水彩画をしまえずにいた。

F12号の大きな青色が、ふらふらと近づいてくる。

「ワコ、帰らないの?」

ソラは、絵の後ろから顔をのぞかせた。

「もう少し、乾かさないと」
「ソラは、もう帰るの?」

「続きは、ウチのアトリエで描くよ」

散らかった絵の具を片付けながら、ワコは言う。

「ねえ、ソラ。普通ってなんだろうね?」
「みんなが普通にできることが、私にはできないよ」

「何、ワコ。また人生相談?」

「真面目に聞いてるのに」

夕焼けを背にソラは言う。


「きっと、普通なんて永遠に見つけられないよ」


「これ見て、ワコ」
「私の彼女」

スマホの中の、二つの笑顔。

「考えなさい、普通なんかじゃない、キミの大切なものをね」

オレンジ色のリムライトが、ソラを縁取っていた。

第3話 青空

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