小説01-02

第2話

あの子の色

ピンポン、ピンポン。

金色の髪の少女は、呼び鈴を鳴らし続けていた。

広い庭に伸びるウッドデッキ。
季節を彩る木々たち。
そして、大きなブランコ。

ここは、ワコの家だ。

バタバタッ。

家の中から、慌てて走ってくる音が聞こえた。

ガチャッ!!

「ワコッ、ワコなの? 帰ってきたの!?」

ワコの母親が飛び出してきた。

喜びに満ちていた彼女の目が、落胆の色に変わっていく。

アーコは、丁寧にお辞儀をして挨拶した。

「お久しぶりです、ヨーコおばさん」
「あのっ、ワコは今、どこにいるんですか?」

「アーコちゃん…」
「お久しぶりね」

少しだけ落ち着きを取り戻した彼女は、ゆっくりとはかなげに言った。

「ワコは、高校に入学して間もなく、いなくなってしまったの」
「少し、お話をしましょう。中に入って」

アーコは、意を決して、ドアをくぐった。

「こっちに来て、ワコの部屋に行きましょう」

二人でアニメを見たり、PS4で遊んだりした部屋。
しばらく入っていなかった部屋。

中に入ると、部屋はあの頃とは別の姿になっていた。

二人で観たDVDやPS4は、部屋の隅に重ねられていた。
代わりに、膨大な数のスケッチブックと水彩画が、部屋中に散らばっていた。

「おばさん、見てもいいですか?」

ヨーコは静かに答えた。
「そうね。見てあげてちょうだい」

様々な絵が描かれていた。
アーコの目が、ワコの色彩で彩られていく。

ワコは、ずっと一人で描き続けていたのだ。
胸の奥が、きりきりと悲鳴をあげた。

部屋の奥の机の上には、きれいな装飾が施された、小さな木箱が置かれていた。

ヨーコは木箱を開けて、中から小さな紙を取り出した。

「この箱にはね、ワコとの思い出を集めてあるのよ」

ヨーコは、小さな紙をアーコの手にそっと握らせた。

「読んでみて」

アーコは、折りたたまれていた紙をゆっくり広げた。
ワコの字だ。少し癖のある、かわいい字。



——————————————————–
お母さんへ

私は、どうしても行きたい場所を見つけました。
ごめんね。高校には行けなくなっちゃった。

でも、心配しないでほしい。

ワタシは、その場所でなら、本当にやりたいことを続けられる。
そして、必ずまたここに戻ってきます。

それでね、このことはアーコに絶対に言わないでください。
言ったら、アーコは何もかも放り出して、私を探してしまう。

アーコには、アーコの場所で頑張ってほしいのです。

いつか、その時まで、しばらくのお別れです。

ワコ
——————————————————–

手紙の上に、滲みが広がる。
気がつくと、涙がこぼれ落ちていた。
涙の絵の具で描かれた水彩画が、広がっていく。

アーコは、頬を伝う涙を袖で拭い、ヨーコの方へ向き直った。

「おばさん、この紙を見て!!」

アーコは、大事にポケットにしまっていた紙を見せた。
あの水彩画の欠片だった。

「ワコが描いた絵だわ!!」
再び、ヨーコの目に輝きが戻ってきた。

「私、ワコを見つけたの!!」
「今は詳しく話せないんだけど、必ず私がワコをここに連れて帰る」
「私を信じて、待っていてほしいの」

ヨーコは何も言わずに静かにうなずいた。
そして、一言だけアーコに告げた。

「あの子を、お願いします」

アーコは、ブランコとウッドデッキを横目に、家を飛び出した。

どうしたら、もう一度あの場所に行ける?
あの水彩画の欠片を拾ったとき、私は何を思った?

それでも、アーコは確信していた。

もう一度描き始めれば、必ずあの場所に行けると。

第3話 パレットの色

目次へ

タイトルとURLをコピーしました