小説01-04

最終話

もう一度だけ

ザザッ、ザザッ。

アーコは、枯れ葉に埋もれた小道を走る。

空はオレンジ色に染まり、夜が近づいている。

梢の隙間から、星が輝き始めていた。

アーコは、夕暮れの小道を走り続けた。

やがて、森の奥にアトリエが見えてきた。

「あっ」

深く積もった枯れ葉に、アーコは足を滑らせた。

倒れた拍子に、ヘアゴムがプツンと切れた。

「イタタッ…」

起き上がったアーコは、目を疑った。

見渡す限り、ヒマワリが広がっていた。

わずかな光を受けて、黄色い花が煌めいている。

柔らかな風に揺れている。

遠くの丘の上に、アトリエが見える。
暖かな光が漏れている。

アーコは、ほどけた髪も気にせずに走り出す。

やがて、玄関のランプがアーコを照らし出した。

深く息を吸い、ドアをノックする。

返事がない。

「ワコ、開けるよ」

ガチッ。

開かない。

「ワコ、お願い…」

アーコはドアに背を預け、座り込む。
そして、絵を抱きしめた。

一枚の木の葉が、ランプの光を遮るように舞い落ちた。

扉の向こう側から、声が聞こえてきた。

「戻ってきちゃったんだね」

「うん」

「絵を描くの、好き?」

「うん」

「これからも描き続けたい?」

「うん」

「どんな絵を描いてくれたの?」

「一緒に夢を描いていた、あの頃の私たち」

「……」
「バカッ。すぐハズイこと言う」

「一番描きたかった絵だから」

「星空は好き?」

「星空?」

顔を上げると、無数の星が輝いていた。

「好き」

「それじゃ、一緒に見ようか?」

「ワコ、一緒に見よう」

ガチャ。

ドアの鍵が外された。

「あっ、ちょっと待って。猫耳ヘッドフォン忘れた」

「えっ、それ、いま必要?」

「アイデンティティですから」

ゆっくりと、ドアが開かれた。


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